皆さん今日もお疲れ様です、現役内科医のさとっこ先生です。
突然ですが、皆さん。
“免疫チェックポイント阻害薬”って知ってますか?えっ、知らない!?
では、”免疫療法”って知ってますか?聞いたことくらいはある?
う~~~ん、”免疫療法”。なんだか耳障りが良い言葉ですよね。体に優しくて安全だと思ってませんか?
果たして本当にそうでしょうか??巷には間違った情報がたくさんあり、一歩間違えば危険なんです。
本日は、がん治療認定医として”免疫療法”について。さらにその中の”免疫チェックポイント阻害薬”についてお話します。今回の文章を読むことで、いざこの知識が必要となった時に、「正しい治療を受けることが出来る」・「主治医に適切に疑問点を質問出来る」・「トンデモ医療に騙されない」ようになることができます。適切ながん治療を受けて頂くことをお手伝いさせていただきますね。
はじめに
“免疫療法”の中のひとつである”免疫チェックポイント阻害薬”は、いまやがん治療の主役です。ただし、巷には間違った情報も溢れています。
大事なこの治療法を、がん治療中の方だけでなく、一般のすべての皆様に正しく理解して欲しいです。ポイントを最小限に絞って簡潔に説明しました。
結論 -免疫チェックポイント阻害薬のポイント 5選-
免疫チェックポイント阻害薬のポイント 5選
- 数多くある免疫療法の中のひとつが免疫チェックポイント阻害薬です。
- 免疫チェックポイント阻害薬が無効な例も多く存在します
- 時に完治に近いレベルの効果を示すことがあります(super responder)
- 「免疫関連有害事象」という特徴的な副作用が起こります。死亡例も報告されています。
- 「吐き気」、「脱毛」、「倦怠感」、「食欲低下」といった典型的な抗がん剤の副作用は軽度で済むことが多いです。
注意点
とっつきやすいよう、あえて砕けた表現にしたり、情報をそぎ落としています。また、記載した内容は「たくさんの患者さん全体を診た場合の一般論」です。「患者さん一人一人を診た場合」は当然たくさんのケース・例外があります。最終的には主治医の先生とよく相談してください。
“免疫療法”という大きな枠の中に”免疫チェックポイント阻害薬”がある
”免疫療法”という大きな枠の中にたくさんのお薬があって、その中のひとつが”免疫チェックポイント阻害薬”です。ここを勘違いすると議論が噛み合わなくなります。
その他の免疫療法としては例えば、”CAR-T細胞療法”、”がんワクチン療法”、”サイトカイン療法”、”樹状細胞ワクチン療法”が挙がります。

標準治療(最高の治療)として認められているのは?
保険適応があり標準治療(=『最高の治療』という意味です)として認められているのは、”免疫チェックポイント阻害薬”と”CAR-T細胞療法”のみです。特に前者はほぼすべてのがんで適応を取得しており、昨今のがん薬物療法の中ではスーパーエースといっても差し支えありません。
※”CAR-T細胞療法”は一部の血液腫瘍のみが適応で非常に特殊な治療なので、今回は割愛します。
標準治療として認められていない免疫療法があります
その他の保険適応を取得していない(=標準治療として認められていない)免疫療法。例えば、”がんワクチン療法”、”サイトカイン療法”、”樹状細胞ワクチン療法”。
これらの中に、第III相の臨床試験(=信頼できる試験だと考えてください)で明確に有効性を示し、副作用ともバランスが取れている治療はありません。
自由診療のクリニックでこれらのワードが出てきたら……すべてがトンデモ医療だと断定はしませんが、その可能性は高いです。警戒してください!!そして迷ったら、必ず主治医に相談してください。あなたの体のことを一番分かっているのは主治医です。
がん患者さんを食い物にしようとする悪い奴らはいっぱいいます…
いいですか、皆さん。がん患者さんを食い物にしようとする悪い奴らはいっぱいいます。皆さんの想像以上にいますよ。それは肝に銘じてください。
不安でいっぱい、インターネットで検索もするでしょう。でも正直言って、罠ばかりです。
自由診療なんて行かなくて良い!民間療法もいらん!!
がん治療認定医が断言します、良い事なんて一つもないです。

このクリニックってどうですか?
免疫療法、安全ですって
芸能人の〇〇さんも治療を受けたって

とても不安ですよね
でも、その治療に科学的根拠はないです
副作用の可能性もありますよ
主治医としてはお勧めしません
ちなみに、クリニックの自由診療として保険適応外の免疫療法を受けた場合、少なくとも治験(=将来の治療を先取りできるチャンス)には参加できなくなります。それでなくとも、主治医が行っている標準治療に悪影響が出ます。はっきり言って、邪魔でしかない。
別パターンとして、親戚が善意であれこれ勧めてくることも多いです。すべて断ってください。もしくは必ず主治医に相談してください。

親戚がコレを飲めって……
なんだか断りにくくて……
免疫チェックポイント阻害薬の有効性と副作用
ここまでの話は理解して頂けたでしょうか。次に、”免疫チェックポイント阻害薬”の実際の効果や副作用を確認していきましょう。
先に結論から。表にまとめると以下の通りになります。では、ひとつずつ確認していきましょう。
“免疫チェックポイント阻害薬”ってそもそも何?
人間には、ウイルスや癌といった敵から自分を守る”免疫”という仕組みが備わっています。病気(疫)から免(まぬが)れようとする仕組み、です。この免疫ですが、「①ウイルスや癌といった敵を攻撃する能力」であることはイメージしやすいかと思います。ただし、それだけでは不十分です。
「②自分自身は攻撃”しない”能力」。これも同じくらい大事です。この②の能力が破綻している方は、自分自身を攻撃する病気(=自己免疫疾患)を発症してしまいます。ですので、免疫が自分自身を攻撃しないために(=免疫が過剰になりすぎないために)ブレーキをかける機序が備わっているのです。これを、免疫チェックポイントと呼びます。
がん細胞はやっかいなことに、この免疫チェックポイントを悪用することで、免疫系の攻撃から隠れる・逃げるという性質があります。
免疫チェックポイント阻害薬は文字通り、この免疫チェックポイントを阻害・破壊することで、免疫のバランスを攻撃方向に傾け、がん細胞を攻撃するお薬です。薬そのものに、がん細胞を攻撃する毒性はないわけです。

『アクセルを踏む』のではなく『ブレーキを壊す』という逆転の発想です
そこが従来の免疫療法との大きな違い
よくこんな発想出来るよ
本庶 佑先生、カッコ良いぜ!痺れます
具体的な薬剤名としては、ニボルマブ(オプジーボ)、ペムブロリズマブ(キイトルーダ)、アテゾリズマブ(テセントリク)・・・等、たくさんの商品があり、その特徴に応じて使い分けられています。
有効性 –効く人には劇的に効く! 効かない人には全く効かない–
”夢の治療”と表現されたこともある免疫チェックポイント阻害薬です。本庶佑先生 (京都大学特別教授)はこの分野でノーベル賞 (医学・生理学部門)を受賞しています。さて、一体どれくらいの効果があるものでしょうか?
端的に表現すると、「効く人には劇的に効く!ただし、効かない人には全く効かない・・」といった感じです。皆さんが想像する通常の抗がん剤であれば、まったく効かないということは少ないです。これは免疫チェックポイント阻害薬との大きな違いです。
また、通常の抗がん剤の効果は、病気の進行を数か月遅らせる程度、であることが多いです。一方免疫チェックポイント阻害薬は、時に完治に近いレベルでの病気の制御(癌が劇的に縮小し、それが数年レベルで続く)が得られることがあります。
そのような方は、超長期生存、super responder (スーパーレスポンダー)、と表現されます。私自身もたくさんの成功経験があります。

あり得ないくらい腫瘍が縮小した経験が何度もあります
そして一番の特徴は、その縮小が超長期に渡り持続することです
寿命を迎えるまでがんが縮んだままなら、それって完治したと同じですよね?
副作用 –免疫関連有害事象が起こりえるが、抗がん剤と比べると楽なことが多い-
副作用がない、あるいは軽い、というイメージがありませんか?それに対する答えは半分正解、半分間違い、です。本来必要であったはずの、「②自分自身は攻撃”しない”能力」である免疫チェックポイントを薬の力で阻害したわけです。当然、免疫はがん細胞だけでなく、自分自身を攻撃しはじめる可能性があります。結果、免疫関連有害事象、という特徴的な副作用が起こり得ます。まれですが、副作用による死亡例も報告されています。よって、副作用がない、は間違いです。
ただし、一般の抗がん剤治療でよくみられる、かつ患者さんが苦痛に感じることが多い「吐き気」、「脱毛」、「倦怠感」、「食欲低下」といった副作用は軽度で済むことが多いです。その観点からは副作用は軽い、という表現は正解かもしれません。一般の抗がん剤と比べれば、お仕事との両立や社会生活の維持が出来る可能性は高いです。
今後の展望
免疫チェックポイント阻害薬のポテンシャルを十分に引き出すこと。つまり、超長期生存にたどり着ける可能性を少しでも上げること、が現在の課題です。異なるお薬を併用したり、放射線と併用したり、腸内細菌叢に注目したり・・様々な研究が行われています。
がんで苦しむ方がいなくなる、これは私たちがん診療に携わる者の夢です。そして、その世界は確実に近づいています。これは夢物語ではありません。研究していて、科学が日々進歩していることを痛感していました。免疫チェックポイント阻害薬に限ったことではありません。パラダイムシフトが起こるような画期的な治療の登場を期待して待っていてください。
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