この記事はこんな方にオススメです!
- AGA治療の内服薬を検討している
- フィナステリド(フィナ)とデュタステリド(デュタ)、どちらにするか悩んでいる
- クリニックのHPやネット広告の『デュタの発毛効果は1.6倍!』が気になっている
- 自分自身がAGA治療中の現役医師のアドバイスを聞きたい
最近よくX(旧Twitter)でこんな広告を見ませんか?

国内で承認されたデュタステリドの発毛効果は1.6倍
多くのAGAクリニックのHPにも全く同じ文言が記載されています。

興味があるけど、ホントに信じて良いのかな…。
所詮広告でしょ、ウソなんじゃない?
俺は騙されないぞ!
色々考えてしまいますよね。それ、現役の医師である私も同じです。

科学者として、またAGA治療中の患者(フィナ内服中)としてホントか気になります!ホントなら私も乗り換えたいし!!
全力で調べました!!
今回、多くのAGAクリニックのHPで同じように述べられている『デュタの発毛効果は1.6倍!』の根拠となっている論文を現役医師である私がチェックしました。そして、フィナとデュタを徹底比較し、結局どっちがお勧めなのかをまとめました。この記事を読むことで、フィナとデュタ、どちらが自分に合っているのか納得して選べるようになります!
結論
- 多くのクリニックHPや広告で述べられている『デュタはフィナの1.6倍の効果』。その『1.6倍』の根拠が私には見つけられませんでした。
- 『フィナステリドよりデュタステリドのほうが治療効果が高い』のは事実です
- 『髪の量が1.6倍に増える』わけではない点に注意が必要です
- 現役内科医である私はこのままフィナの内服を続けます(デュタに切り替えません)
根拠・エビデンスとして引用されている論文を解説します
ではさっそく『デュタステリドはフィナステリドより1.6倍効果が高い』という情報について調べていきます。
信頼できる論文でした

根拠となった文献はこちら。なんと無料で読めます!!
現役医師である私がチェックします!

タイトル:Relative Efficacy of Minoxidil and the 5-α Reductase Inhibitors in Androgenetic Alopecia Treatment of Male Patients A Network Meta-analysis
著者:Aditya K Gupta et al.
雑誌名と年代:JAMA Dermatol 2022
JAMA系列の雑誌でした!!アメリカの超有名雑誌です。いわゆる、ハゲタカジャーナル(著者から出版料を巻き上げることが目的の悪質な雑誌)ではありません。文献として引用されていた論文自体は信頼できます!
信頼できる解析方法でした
- 男性型脱毛症(Androgenetic Alopecia; AGA)における、経口および外用のミノキシジル、デュタステリド、フィナステリド、それぞれの単剤療法の相対的な有効性を比較しています
- 23本の論文を統合的に解析した”メタ解析”という手法を用いています
デュタとフィナだけでなく、ミノキシジルも解析していますね。しかも、経口と外用も。いわゆる、『ミノタブ』についても言及されている論文です。気になるところですが、今回は『デュタ vs フィナ』に絞って解説します。
“メタ解析”という研究方法自体の解説は割愛しますが、”かなり信頼度の高い解析方法だよ”と考えて頂いて結構です。
JAMAという信頼のおける雑誌で、メタ解析という信頼のおける解析方法が用いられています。信憑性はかなり高いです。(皮膚科学会のAGA治療ガイドラインが将来改定されることがあるなら、この論文は確実に引用されるでしょう。)
デュタステリドはフィナステリドより有効性が高い
『デュタ 0.5mg/日の内服』は『フィナ 1.0mg/日の内服』より有効性が高い
- 『デュタ 0.5mg/日の内服』は、『フィナ 1.0mg/日の内服』と比較して統計学的に有意に総毛髪数を増加させる
- 具体的には、1cm2あたり 7.1本多く毛髪数が増加する。(95% CI: 5.1-9.3本/cm2)
- 上記の有効性は『Total Hair Count(総毛髪数)』であり、『Terminal Hair Count(終毛数)』ではないことに注意が必要
今回検討された治療のなかで最も有効とされたのは『デュタ 0.5mg/日の内服』です。特に、『フィナ 1.0mg/日の内服』との効果を比較すると、1cm2あたり 7.1本多く毛髪数が増加します。(95% CI: 5.1-9.3本/cm2)
※『デュタ 0.5mg/日』、『フィナ 1.0mg/日』は多くのAGAクリニックで処方されている標準的な用量です。
※95% CIの説明は割愛します。ここでは”多くの方にとって、5.1本から9.3本程度の増加が得られる”と考えてくれれば十分です。

『有効性はデュタ>フィナ』、これはガチ!
しかし注意点もあるんです
順番に説明します!
『Total Hair Count(総毛髪数)』と『Terminal Hair Count(終毛数)』
『Total Hair Count(総毛髪数)』と『Terminal Hair Count(終毛数)』、AGA治療において重要なワードです。
・Total Hair Count(総毛髪数):すべての毛髪の本数。終毛(Terminal hairs)も軟毛(Vellus hairs)も含んでいる
・Terminal Hair Count(終毛数):毛髪のなかで、終毛だけを数えたもの。
終毛=『太く・色が濃く・長く成長する成熟した毛のこと』
軟毛=『細く・色が薄く・柔らかい毛のことです。いわゆる産毛(うぶげ)』
重要なのは『Terminal Hair Count(終毛数)』である
そうです。デュタの優位性を示しているのはTotal Hair Count(総毛髪数)、つまり産毛も含めての本数なんです。正直、産毛が何本増えようが見た目の印象に変わりはありません。皆さんが求めているのは、『見た目の改善』ですよね。数学的な『毛の本数』ではないはずです。

上の2つの図を見て下さい。同じ面積にドットが打ってあります。違いは、ドットの太さです。右の方がドットは少ないのに、濃くはっきり見えますよね。
これを頭皮と髪の毛におきかえて考えて下さい。見た目の印象はTotal Hair Count(総毛髪数)よりもTerminal Hair Count(終毛数)に左右されます。
『Terminal Hair Count(終毛数)』を観察したデータがデュタにはない
少なくとも今回ご紹介した論文には、デュタが『Terminal Hair Count(終毛数)』に与える影響についての記載はありませんでした。(メタ解析に用いられた元論文を見るといくつかデータはありそうです)
1cm2あたり 7.1本多くTotal Hair Count(総毛髪数)が増加することのインパクトは?
以下は論文記載の学術的な内容ではなく、私個人の考察ですので注意してください。
いわゆる”カッパ禿げ”の部分の面積は30~50cm2程度であると言われています。つまり、デュタ内服はフィナ内服と比較して、頭頂部全体のTotal Hair Count(総毛髪数)は7.1 (本/cm2) × 30 ~ 50 (cm2) = 213 ~ 355本増える、ということになります。(繰り返しになりますが、これは”産毛”を含んだ総毛髪数です)
……うーん、これがどれくらい見た目に影響を与えるのかは分かりません。”終毛”と”軟毛”の割合も不明ですしね。

少なくとも、劇的な変化ではないように思えます
『フィナをある程度内服し一定の効果が得られた方が、デュタに切り替え(スイッチ)したときの毛髪量の変化』に興味があります。しかし文献検索した限りでは、この問いに答える論文はありませんでした。
副作用はデュタのほうが強い可能性がある
薬剤の評価を行う時、『効果』だけではなく『副作用』の評価も大事です。しかし、今回の論文では、『副作用』についての評価が一切ありません。
参考として、日本人を対象としたデュタステリドの有効性と安全性について述べた有名論文に少し触れておきます。
タイトル:Long-term safety and efficacy of dutasteride in the treatment of male patients with androgenetic alopecia
著者:Yuichiro Tsunemi et al
雑誌名と年代:J Dermatol 2016
性欲減少 8.3%、インポテンツ 11.7%、射精障害 5.0%が比較的高率に確認されている点に注意が必要です。

『髪が生えて彼女が出来たけど、性欲無くなって勃起もしなくなった』なんて笑い話もあるようです
なお、この論文はデュタとフィナを比較したランダム化試験では”ない”ので、同じ土俵でフィナの副作用に言及することは出来ません。「違う臨床試験(=母集団が異なる)のデータの絶対値を比べる」ことは科学者としてはご法度なので参考値になりますが、フィナのこれらのデータは1%前後という報告が多いです。
デュタステリドはフィナステリドと比較し性欲減少、インポテンツ、射精障害といった副作用が高頻度で認められる”可能性があります”
特に日本人を対象とした臨床試験で報告されているデータであり注意が必要です
価格はデュタが高い、フィナと比較し10年間で30万円程度差が出る
内服薬は中止すると効果を失います。なので髪・薄毛に興味を失うまで続ける必要があります。超長期に渡る内服になるため、コストの問題も避けては通れません。今回、私が見た広告の医院のHPには以下の価格が記載されていました。
某医院のフィナステリド、デュタステリドの価格
- フィナステリド 1mg 5500円/月 (税込)
- デュタステリド 0.5mg 8250円/月 (税込)
10年間内服すると仮定すると差額は以下の通り
(8250 – 5500)/月 × 12ヵ月 × 10年間 = 33万円
なお、私は別のクリニックでフィナステリドを処方して頂いているのですが、全く同じ価格でした。このあたりが相場なのでしょう。
『1.6倍』の根拠は分かりませんでした

国内で承認されたデュタステリドの発毛効果は1.6倍!
では、最も気になる『1.6倍』の根拠について確認しましょう。しかし結果から言うと、私にはその根拠が分かりませんでした。少なくとも、論文中に明確な『1.6倍』という記載はありません。
多くのクリニックHPに記載されているデータ
①服用24週間時点での毛髪数の増加をデータ化
フィナ 1mg 65.2% vs デュタ 0.5mg 95.7%
②フィナはデュタの1.6倍の効果が認められる
論文を再度確認しましょう。今回、『SUCRA』という治療効果を表す独自の概念が論文中で定義されています(専門的すぎて私も完璧には理解出来ませんでした)。そのSUCRAが、「フィナ 1.0mg内服 = 65.2%」,「デュタ 0.5mg内服 = 95.7%」です。なので、上記チェックボックス内にある①は事実です。
ただし、単純に割り算をしても『95.7 ÷ 65.2 = 1.47』であり、1.6倍にはなりません。そもそも、このSUCRAを単純に割り算することを単純に『効果が〇倍』と言って良いのかは疑問です。ミスリードの可能性があります。
強いて挙げるなら、『1.6倍』の根拠はこれでしょうか?
Figure 4.のKilim Plotで、SUCRAとは違った指標で評価されています。「フィナ 1.0mg内服 = 11.6」,「デュタ 0.5mg内服 = 18.7」なので、これを割り算すると「18.7 ÷ 11.6 = 1.61」になり、『1.6倍』と一致します。ただ、この指標の説明は割愛しますが、単純に割り算して『効果が〇倍』と表現するのはミスリードの可能性があります。
有効性がデュタ>フィナであることは科学的に真実です。ただし、『発毛効果が1.6倍』はセールストークである可能性があります。

私には『1.6倍』の明確な根拠が見つけられませんでした。
しかし、すべてのAGAクリニックが同じように『1.6倍』と述べています。
何かしらのロジックはあるのでしょう。

有効性がデュタ>フィナ、なのは科学的に真実です。
ただし『フィナ→デュタに切り替えることで、髪の毛の量が1.6倍に増える』という単純な話ではないことに注意してください。
また、産毛も含めた毛髪量の増加なので、見た目の印象がどこまで変わるのかはハッキリしません。
受診の際に期待される効果を実際に質問してみると良いでしょう。
まとめ ~私はフィナ→デュタに切り替えません~
以上をざっくり表にまとめました。「数字上の有効性」と「それが見た目に与える影響」は別に考える必要があることに注意してください。

現役内科医であり、かつAGA治療中(フィナ内服中)の私が『フィナとデュタ、どっちがお勧めなの?』、『ネット広告(デュタはフィナの1.6倍の効果!)を信じて良いの?』という疑問について本気で調べ、簡潔に回答しました。
さて、私はデュタ→フィナ、に切り替えるのでしょうか?

私はこのまま、フィナ内服を続けます。デュタには切り替えません。
理由は以下のとおりです。
現役内科医である私が『フィナ→デュタへの切り替え』を行わない理由
- すでに結婚し子どももいる。毛髪に関しては趣味や自己満足になっている。
- 副作用への抵抗感がある。
私自身、フィナステリド内服で明らかに毛髪は増え見た目もだいぶ変わりました(期待以上でした)。しかし、つむじや分け目の薄さは相変わらず。床屋さんで鏡を使って後頭部を見た時、つむじ付近の薄さに毎回新鮮にがっかりしています。現状に満足はしていません。
ただし、すでに40歳を過ぎ、結婚し子どももいます。妻はこんなこと言ってますし。

別にハゲてないよー

いやいや、明らかにハゲとるわ
子どもの前でカッコ良いパパでいたい気持ちはありますが、別に髪の量だけが重要なわけじゃないですしね笑

『30歳前後、ばりばり婚活してます!』って感じなら切り替えるかもしれません
また、性的な副作用の頻度が高い可能性があることにも懸念があります。しかしこれは、原則的には内服を止めれば元に戻る事象です。いわゆる、『可逆的な副作用』です。
トライ アンド エラー。一回試して、体に合わなければもとに戻す。という考えはアリだと思います。
結果、個人的にはフィナ→デュタへの切り替えは行いませんでした。しかし、メリットがある患者さんは一定数いると思います。期待される効果、副作用、コスト……。AGA治療の目的や目標・ゴールがどこにあるのかを考えつつ納得のいく選択をしてくださいね。
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