皆さん、今日もお疲れ様です。現役内科医のさとっこ先生です。本日は”セカンドオピニオン”についてお話させて下さい。
というのも、インターネットという雑多な世界で、”間違った考え”や”たまたま上手くいった1例の体験談”がはびこっており、皆さんが正しく理解出来ているのか不安だからです。
がん治療認定医である私が、セカンドオピニオンとそのメリット・デメリットを解説します。この文章を読むことで、方針に納得してがん治療に臨むために正しくセカンドオピニオンが使えるようになるはずです。また文末に「主治医への上手な話の切り出し方」も記載しました。
セカンドオピニオンとは?
さて、セカンドオピニオン。このワード自体は十分に世間に浸透しているのではないでしょうか。
“がん情報サービス”ではこのように説明されています。
患者が診断や治療選択などについて、現在診療を受けている担当医とは別の医師に求める助言(第2の意見)およびそれを求めることをセカンドオピニオンといいます。
引用 がん情報サービス
ちょっとあっさり目ですね。おなじみのPerplexity AI https://www.perplexity.ai/ にも聞いてみました。
・「第二の意見」という意味合いがあり、主治医以外の医師から診断や治療方針について助言を得ることです。
・医療機関を変更することではなく、あくまで別の意見を聞くことが目的です。
・がん診療連携拠点病院などで行われることが多く、標準治療に基づいた意見を得られます。
うん、まさに読んだ通りでよくまとまっていると思います。
では、このセカンドオピニオンについて、がん治療認定医の目線でお話させて頂きます。
前提
本記事は、がんのような命に関わる病気に直面した際のセカンドオピニオンを念頭に執筆しました。
科学的な文章というよりは、普段あまり目にすることのない医師からの視点を、「へー、そうなんだ」と気軽に読めるように配慮しました。そのうえで、がん治療について迷っている患者さんが方針に納得し治療に臨めるよう、背中を後押し出来たなら嬉しいです。
あ、ひとつ私と約束してください。実際の治療については、すべて主治医の先生と相談してください。あなたの体について一番良く知っているのは主治医です。インターネットには情報が氾濫していますが、それらの取捨選択を患者さん自身が行い、さらに治療方針に影響を与えてしまうのは危険だと感じています。
結論
セカンドオピニオンのメリット
・主治医の提案を納得して受け入れるためのひとつのステップになる
・診断自体に難渋している場合は医学的なメリットもあり得る
セカンドオピニオンのデメリット
・一発逆転の可能性は低い(夢の治療法が見つかる、予想もしない治療の提案がある等)
・時間をロスし治療開始が遅れる可能性がある
夢の治療法が見つかる可能性は少ない(今回一番伝えたいこと)
患者さんが最も期待することは、「夢の治療法が見つかる」、「予想もしない治療の提案がある」といった一発逆転ではないでしょうか。結果から言うと、そこにたどり着ける可能性は低いです。少なくとも、私は経験がありません。
というのも、最新の治療情報にアクセスすることは非常に容易な時代です。AIや翻訳サイトの進歩もあり、情報を取りこぼすことも減りました。定期的に開催される学会で知識のアップデートも行っています。大学病院やがんセンター等、地域のがん治療中核病院に在籍していれば、ホットな情報はすぐ耳に入ってきます。
結果、日本トップクラスの病院をセカンドオピニオンとして受診しアドバイスを頂いたとしても、その根拠となる情報源は同じなわけです。
また、患者さんが直接お話する主治医は一人かと思いますが、治療方針決定にはたくさんの医師の目が通ります。私が在籍していた〇〇大学病院では、「呼吸器検討会(一般呼吸器内科医による検討)」、「肺癌検討会(肺癌専門医による検討)」、「キャンサーボード」と3つの検討会で症例検討が行われていました。

特に、キャンサーボードは腫瘍を専門とする内科医、外科医、放射線治療・診断医、病理医……等、たくさんの医師が一堂に集まる検討会で非常に重要です。他科の先生から様々な意見が出て、治療方針がブラッシュアップされること・がらっと方針が変わること、は多々ありました。
キャンサーボード無くしてがん治療は出来ない、とすら思います。このように、患者さんが直接お話する主治医の背後には、たくさんの医師のサポートがあります。実はすでに十分議論が尽くされており、結果的にはセカンドオピニオンで一発逆転に結び付く可能性は低くなります。
セカンドオピニオンのメリット
メリット ①
最も大きなメリットは、「有名病院から・冷静な第3者からコメントを頂くことで患者さんも治療方針に納得したうえで治療に望めるようになること」でしょうか。この納得感は非常に大事なことです。
メリット②
小規模な病院は、前述のキャンサーボード等の検討会が不十分なことがあります。また、医師の数が少ないとガラパゴス的な治療になってしまうリスクがあります(一人の医師の思い込みが原因で適切な治療が行われない。古い治療が行われてしまう可能性があります。中には〇〇癌を専門とする医師が1名という病院もあります。そういう環境だと周りの誰とも議論が出来ずよりリスクが高まります。)
そのような場合は、セカンドオピニオンで治療方針の間違いがないか確認するのは有効になると思います。
メリット③
診断自体に難渋している場合もセカンドオピニオンが有効となる可能性があります。〇〇病です、と確定診断すること。いわゆる診断学は本当に難しく奥が深いです。我々内科医が最も頭を悩ませるところです。何万人に一人レベルの希少疾患が隠れている可能性は常にあります。たくさんの検討会を経ても、「うーん…〇〇病、△△癌だと思うけど、なんか違和感あるんだよね…」みたいなことは珍しくありません。この診断の過程を国内のエキスパートに助けて欲しい、と感じることはあります。
逆に、診断さえついてしまえば、昨今は各学会が非常に丁寧なガイドラインを作成しています(多くは一般の方もアクセスできます。〇〇病診療ガイドライン、等で検索してみてください)。80点以下の治療が行われることは理論上あり得ません。
セカンドオピニオンのデメリット①
デメリット①
注意すべきは1点だけ。「紹介状の作成→セカンドオピニオンの予約→実際に受診→お返事の到着を待つ」というロスタイムが生じます。がんの領域では多くはないものの、1-2週で状態が悪化、急変する可能性もゼロではありません。「2週間前は元気だったからパワフルな治療Aに臨むことが出来たはず。でも今は、状態が悪化し治療を受けることが出来ません or 効果が弱い治療Bしか受けることが出来ません」という事態が起こり得ます。時間的な余裕があるか、は主治医に必ず確認してください。
デメリット②
上記のロスタイム以外はあまり思いつきません。無理やりひねり出すなら、自由診療扱いなので全額自己負担、遠方に行くのなら交通費がかかる、人混みを移動するのであればコロナ等感染症のリスクがある(がん治療前であれば非常に大事)、くらいでしょうか。
デメリット③
どの先生がセカンドオピニオンを担当してくれるかは先方の病院の都合次第です。少しでも良い治療を提供しようと、非常に丁寧なお返事を頂けることもあれば(こういう時、行間から患者さんへの愛情を感じるんですよね)、数行程度の簡素なお返事でがっかりすることもあります。いわゆる、当たり外れ、はあると思います。
気分を害さないか心配? 主治医への話の切り出し方は??
ちなみに、セカンドオピニオンを受けたい、という提案で主治医が不快な思いをすること……少なくとも私はありませんでした。
前述の通り、方針が変わるレベルの大きなメリットにつながった経験はないとはいえ、有名病院のトップクラスの先生と直接意見交換ができ、自分たちの治療方針についてコメントがもらえるのは科学的にも、医師としてもエキサイティングなことです。
ただし、かなりチカラを入れて紹介状を作るので大変ではあります。”有名病院への挑戦状”のようなイメージになるので肩に力が入っちゃうんです笑
ちなみに、セカンドオピニオンに送り出す時、以下の2パターンの感想があります。
①ノリノリver.

検討会でも治療方針で意見割れたんだよね……
国がん(超有名がん治療病院)の意見も聞いてみたい
ぜひ行っておいで!!
②しぶしぶver.

気持ちは分かるけど、誰がどうみても方針は一択だよ…
正直、無駄だけどなー
まぁ、納得してもらえるなら良いか
時間的な余裕もあるし
恐らく多くの方は、①ver.なら行きたいし、②ver.なら行きたくない・余計な手間暇はかけたくない、と思いますよね。そんなときは、以下のように質問してみると良いかもしれません。

私の場合、セカンドオピニオンとして他の病院を受診するメリットはあると思いますか?
先生がお勧めするのなら、受診してみたいです。
いきなり「セカンドオピニオンしたいです!!」と宣言するより(圧が強いと、実際の有無はさておき、敵意・不信感があるよう感じてしまうことがあります)、医師としても受け入れ易いと思います。それに、もし②ver. (あまり意味がないとき)であれば、すべて正直にお伝えしお勧めしない旨を伝えることが出来ますしね。
まとめ
いかがでしたでしょうか?最後に要点を再掲します。
セカンドオピニオンのメリット
・主治医の提案を納得して受け入れるためのひとつのステップになる
・診断自体に難渋している場合は医学的なメリットもあり得る
セカンドオピニオンのデメリット
・一発逆転につながる(夢の治療法が見つかる、予想もしない治療の提案がある)可能性は低い
・時間をロスし治療開始が遅れる可能性がある
がん患者さん、考えることがたくさんあるじゃないですか?不安でいっぱい。今の治療を受け入れて良いの?大丈夫??って。頭がパンクしそうになっていると思うんです。
その中に、セカンドオピニオンという事象があって。よく分からない言葉。ほかの病院も行った方が良いのかな?どうしよう……
なんだか「セカンドオピニオン」というワードが独り歩きしているようで。そういった方々の手助けがしたいと考えながら執筆しました。
がん治療について迷っている患者さんが方針に納得し治療に臨めるよう、背中を後押し出来たなら嬉しいです。以上、がん治療認定医である私が、セカンドオピニオンとそのメリット・デメリットについて解説しました。がん治療の方針に納得して治療に臨むために、セカンドオピニオンを正しく理解し、上手に使ってくださいね。
なお、以下の考えもアリだと思います。逆に、こうやってお任せできる主治医に出会えたら幸せなことだと思います。

「先生に全部お任せします!」でも良いと思いますよ
そう言って頂けると私は凄く燃えます!
あとは俺に任せろ!!ってね
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